頭のかたち相談
かつては「赤ちゃんの頭の形は成長とともに自然に整うもの」とされ、治療の必要性はあまり認識されていませんでした。しかし近年では、頭の形を気にされるご家族の意識の向上や3Dプリンターなどの技術面の発達も加わり、治療を検討する傾向が広まっています。
ここで大切なこととして、位置的頭蓋変形症(向き癖による変形)は、赤ちゃんの成長や発達には何ら影響しないということです。ヘルメット治療は大変高価であるためにご家族の不安をあおるような文言が多く見受けられることには注意が必要です
将来的に頭の形の変形(絶壁といわれるものや短頭など)があることでの心理的な影響や歯並び・肩こりといったマイナーな影響がでる可能性はあります。
また、赤ちゃんの頭の変形が病的なものではないことを鑑別する必要がある場合にも注意が必要です。
あたまのかたちの治療がある背景
赤ちゃんの頭は、出産時に狭い産道を通りやすくするため、頭の骨が柔らかく、いくつかの骨がパズルのように組み合わさった構造になっています。また1~2歳までに急速に脳が成長するため、骨と骨の間に“隙間”がある状態が保たれています。
その結果、生後間もない時期には重力や寝る姿勢(向き癖)の影響を受けやすく、頭の形が簡単に変形してしまうのです。
1992年以降、「うつぶせ寝」が乳児突然死症候群(SIDS)のリスクを高める可能性があるとされ、仰向け寝が推奨されるようになりました。これにより、乳児の突然死は激減したものの、仰向けによる圧力でやわらかい赤ちゃんの頭の形に左右差や偏りが出やすくなったといわれています。現在では、1歳未満の赤ちゃんの多くに何らかの頭の歪みが見られるとも報告されています。
赤ちゃんの頭のかたち
赤ちゃんの頭のかたちに見られる歪みの多くは、妊娠中の子宮内での体位や、出生後の向き癖など、外的な要因によって起こる「位置的頭蓋変形症」です。これらの多くは成長とともに改善しますが、変形の程度が強い場合にはヘルメットによる矯正治療が必要になる場合もあります。
一方で、「頭蓋骨縫合早期癒合症」といって、頭蓋骨の縫合線が通常より早く癒してしまう病的な原因によって頭の形が変形することもあります。この頭蓋骨縫合早期融合症は早い段階での外科的な治療が必要になることが多くあります。また頭蓋骨の変形には水頭症や出生時の吸引分娩に伴う頭血腫などが合併することもあり、頭蓋骨変形に対する矯正治療を始める前に必ずこれらの病的な疾患について正確に診断することが非常に重要です。
歪みのパターン
赤ちゃんの頭の歪みには、以下のような3つの代表的なパターンがあります。
治療の必要性はこの形のパターンによるものではなく、ゆがみの程度の強さで決まります。
斜頭症(しゃとうしょう)
後頭部が斜めにゆがんだ状態で、ゆがみの程度が強いと、正面から見ると耳の位置に左右差を生じます。就寝・授乳時に左右一方への強い向き癖、子宮内環境(子宮が狭い双子など)での後頭部の片側への圧迫などが原因となります。
短頭症(たんとうしょう)
後頭部が丸みを帯びずに平坦になっている状態、いわゆる絶壁と呼ばれます。あおむけ寝による後頭部への圧迫が原因とされます。
長頭症(ちょうとうしょう)
横向きの姿勢が続くことで、頭の側方への成長が促進されるタイプです。NICU(新生児集中治療室)で長期間過ごした赤ちゃんに比較的多く見られます。
後頭部が大きく突出した状態、横向き寝による側頭部への圧迫が原因となります。長頭症は病的頭蓋変形と特徴が似ているために、早期の診断が必要となります。
ヘルメット治療とは
ヘルメット治療は、赤ちゃんの頭蓋骨がまだ柔らかく成長途中にある乳児期に行う矯正治療です。
ヘルメットは赤ちゃんの頭の形に合わせてオーダーメイドで作成し、ヘルメットにより赤ちゃんの頭部を保護しながら、就寝時などに頭の平らな部位が圧迫されないよう成長のスペースを確保します。また突出や変形部には柔らかに圧を加えて改善を図ります。治療の適齢月齢は首が座った頃(生後3か月前後)から生後8~9か月頃までですが、治療の開始が早い方が効果が高いとされています。
1歳を超えると治療効果が下がることに加え、自分でヘルメットを取ってしまうなどもあり、治療が難しくなります。
治療を検討されている方は、早めに受診する方が良いでしょう。
ヘルメット治療のメリット・デメリット
メリット
ヘルメット治療の最大の利点は、比較的短期間で効果的に頭の形を整えられる点にあります。とくに、生後3~5ヶ月の柔軟な頭蓋骨の時期に開始することで、矯正効果が高まりやすくなります。
また、治療中に赤ちゃんが痛みを感じることは基本的になく、ヘルメットを装着したままでも日常生活を問題なく送れることも大きなメリットです。
赤ちゃんの頭のゆがみに対する治療が行われることで、ご家族の心理的な負担が軽減されることは、その後の子育てにおいておおきなメリットになることもあります。
デメリット
一方で、ヘルメット治療にはいくつかの注意点もあります。まず、1日にほとんどの時間(20~23時間)ヘルメットを装着する必要があるため、初めの2週間ほどは皮膚が赤くなるなどの接触トラブルが起こる可能性があります。治療効果が認められると装着時間が短くなっていきます
さらに、治療期間中は月1回程度の定期通院が必要で、調整費や移動なども含めて、ご家族の時間的・経済的な負担が少なくありません。
これらの点を踏まえ、ご家族と十分に相談したうえで治療を検討することが大切です。
ヘルメット治療以外の対処方法
赤ちゃんの頭の形のゆがみは、日常生活の中で予防や軽減が可能です。以下のような姿勢や習慣に配慮することで、自然な形の成長をサポートすることができます。しかし、頭蓋骨縫合早期融合症などの病的な変形では医療的な介入が必要となりますので、注意してください。
頭の向きを左右交互に変える
赤ちゃんを仰向けに寝かせる際には、頭の向きを左右交互に変えるように心がけましょう。常に同じ方向に向いていると、その部分に圧がかかり続け、偏った形になりやすくなります。
当院では向き癖に対する、赤ちゃん体操について希望あれば説明しております。
抱っこやおんぶを多めに行う
抱っこやおんぶを多めに行うことで、頭部への接地時間を減らすことができます。ベビーベッドやバウンサーで長時間過ごすのではなく、適度に抱き上げてあげることで、頭の圧迫を軽減できます。
おもちゃを活用する
赤ちゃんの興味を引くおもちゃや音の出るアイテムを左右交互に配置することで、自然に頭を動かす習慣がつきます。これにより、同じ方向ばかりを向くのを防ぎます。日中に赤ちゃんをうつ伏せにする時間(タミータイム)を設けることも、頭の形を整えるうえで効果的です。タミータイムは、頭部への圧力を避けるだけでなく、首や体幹の発達にも良い影響を与えます。
タミ―タイムについては、当院では1回20~30分程度を1日2~3回程度取り入れていただくことを推奨しています。お母さまだけでなく、ご家族みんなで取り組むことが大切です。
当院でのヘルメット治療
当院では頭の形を強く心配される場合やヘルメットによる矯正治療を希望される場合には「0歳からの頭のかたちクリニック 表参道神宮前クリニック」を連携クリニックとしてご紹介しています。
こちらは、日本ヘルメット治療評価認定機構が認定する唯一のクリニックである0歳からの頭のかたちクリニックの分院 表参道神宮前クリニックです。
こちらのクリニックでは、世界に数台しかない優れた機能を持つスキャナーを用いた正確なゆがみの測定が可能であり、また治療に使用するクルムフィットヘルメットは、内側に低反発のクッションを用いており、オーダーメイドで作成し、小さいお子さまの負担とならないように設計されたものを使用しております。
近年、赤ちゃんの頭のゆがみに対するヘルメット治療が急速に広がったことで、頭蓋骨縫合早期融合症などの病的な疾患の見逃しの報告が増え、小児脳神経外科、形成外科の医師らより懸念が示されています。
頭蓋骨の変形に対するヘルメット治療を実施する前に、レントゲンを用いた検査等で頭蓋骨縫合早期融合症を除外し、正確に診断することが欠かせません。
またヘルメット治療が開始されたあとは、経験の豊富な医師による定期的な経過観察が大切です。
医療連携することで、ヘルメット治療に関しては表参道神宮前クリニックでの受診となり、ヘルメット治療による皮膚トラブルなどの診察や通常の受診に関しては当院にて行うことが可能となります。また医療連携したものの、ヘルメット治療を選択しなかったお子さまの経過観察も当院では丁寧に行っております。